うめちゃんからの手紙 2018 No.117 私は衣笠丼のような人になりたい。

うめちゃんからの手紙 2018 No.117

以前マリーちゃんが関西に来た時の写真。

うめちゃんからの手紙 2018 No.117

木曜日だったので家庭教師の田中さんのレッスンがありました。
今日は祝日だったので午前中から田中さんのお宅にお邪魔して勉強してきました。
基本的には私の下宿の部屋に毎回来ていただいているのですが、今回は初めて田中さんの部屋に入りました。
三時間勉強を教えていただき、その後お昼ご飯にそうめんをご馳走になってしまいました。
田中さんのお手製そうめんは少し変わっていて、細かく刻んだネギ、きゅうり、炒りごま、そしてオクラがお汁に入っていました。
そうめんとオクラ、相性はとても良く、気に入ってしまったので私も真似をしようと思いました。

そうめんを食べていると奈良県の事が勝手に私の頭に浮かびます。
はるちゃんとマリーちゃんを連れて京都に帰省し、奈良県にある矢田寺まで紫陽花の撮影に行こうという計画を立てていました。
例年と似たようなタイミングで紫陽花が咲くのであれば、6月中旬から下旬にかけてが最も綺麗に見られるタイミングだと予想していました。
ところが今朝、田中さんの自宅がある文京区に向かっていると早くも咲いている紫陽花を見つけてしまいました。
異常気象なのか、気が早い紫陽花なのか、私には分かりかねますが、五月の始めの段階で立派に咲いているものですから、友人達を連れて6月に実家に帰省する計画を立て直したほうがいいのではないかという気もしてきました。

矢田寺は子供の頃に母に何度も連れて行ってもらっていて、夢にも何度も出てくる程に思い出深いお寺さんです。
関東にも紫陽花といえば明月院・長谷寺が有名であったり、彼岸花であれば埼玉県日高市にある巾着田であったりと、一つの花が群生して咲く土地が観光の名所になっている土地が幾つかあります。
そのどちらかを撮影に行っても楽しいでしょうし、発見もあると思うのですが、マリーちゃんとはるちゃんを矢田寺に連れて行きたいぞ!という思いは二人と仲良くなった当初から芽生えていたような気がします。
奈良県、おかるのお好み焼きと明石焼き、おちゃのこのかき氷、奈良公園と東大寺大仏殿の柱、すべて友達にも体験してもらいたい。
時間が許すのであれば笑い飯哲夫さんのご実家のそうめん屋さんにもつれていきたい。
そうめんの端の切り落としをお味噌汁用に買ってきたいですね。

そうめんを食べると奈良県のことをどうしても考えてしまうのですが、少し冷静さを取り戻すタイミングでいつもきまって小豆島のそうめんもセットで私の頭の中にひょっこり顔を出します。
この”そうめん記憶”にも両親との思い出が詰まっていて、私の母が渡船やフェリーが好きで、瀬戸内に浮かぶ色々な島に行ってみようと家族旅行した年がありました。
その時に小豆島のお土産屋さんのような場所で安くてとても美味しいそうめんを家族みんなで食べた思い出があります。

旅をした土地で食べた料理は記憶に残りやすいのかもしれません、もしくは旅先で出会う食べ物に私は恵まれていて幸せ者なのかもしれません。

マリーちゃんが京都に来るたびに色々なところに連れて行っています。
基本的には両親と行った事のあるお店で美味しかった思い出のあるお店の中から選んで連れて行っています。
少しでも私が連れて行ったお店の味や体験がマリーちゃんの中で楽しい思い出として残ったり、成長してくれたらいいなと思っています。
その日は従業員のすべてが女性だという評判の天丼専門店がオープンしたと聞き向かったのですが、大変な繁盛店で空腹状態では待っていられる自信がなく諦め、半ば錯乱状態に近いぼんやりとした頭で歩を進めふらりと見覚えのあるうどん屋さんに気付いたら入っている事がありました。
何の気なしに父とふらりと気軽に入る事の多かったお店にマリーちゃんを連れて行ったのです。
特別美味しいわけでもなく、まずくもなく、友人が来たら連れて行きたいお店のリストからはあぶれてしまうようなお店です。
安くて美味しいのだけれど店主の機嫌の抑揚がわかりやすいお店であったり、見習いがやたらとどやされている類のお店です。笑
ところが気取らなさがマリーちゃんの的を射たのか、そのお店をマリーちゃんは大変気に入ってくれたのでした。
英語で美味しい食べ物を食べた時などに使う表現で日本語を直訳したままのような「Hit the spot.」という言い回しがあります。
その日マリーちゃんが食べたのは衣笠丼だったのですが、食べた直後にマリーちゃんの顔が笑顔になり、私は心の中で流鏑馬を見ていた観客のように歓喜したのでした。

衣笠丼、これは父の得意料理でもあります。
父は何千回と私や母に作ってくれています。
レシビに材料を書いてしまうと貧乏くさく華やかさに欠けるのですが、ぱっと見では良さがわからない美味しさと魅力のつまった丼です。
関西でも貧乏くさいメニューだという人も多い気がします。

卵チャーハンの奥の深さにも通ずるものがあり、材料がシンプルであるがゆえに材料の個性、そして調理者の技術が問われます。
本当に美味しいお出汁、あげ、そしてネギで丁寧に作ればこれはななりといった感じで、私個人としてはもっと評価されて全国進出してほしい関西の味です。
カツ丼のような派手さがない分、地味に見られている食材が主役になる丼であるがゆえに真っ当さが問われるのです。

話を少し戻します。
マリーちゃんを連れて行った町のうどん屋さん、気にする方はあまりいないと思うのですがお米の炊き方が完璧でした。
丼用のお米は普通に白米だけで炊く時とは異なり、水分を1割ほど減らして炊くのが私は好ましいと考えています。
水分を少なめで炊いたお米の方がお汁とのバランスが良いのです。
外食店で残念なお米が出される事はとても多いように感じます。
お米の炊き方、お出汁の取り方がさすがだなぁと感じさせるお店でした。
本当に細かい事なのだけれど、そこをきちんとしていれば衣笠丼の知識を持たない外国の方には、むしろ日本人よりも正しく受け取ってもらえるのかもしれないなと思いました。

東京で下宿するようになり、実家にいた時よりも自炊をしたり友達に料理を作る事が増えました。
自分で調理をする機会が増えた今、改めて子供の頃に利用したお店であったり、思い出に残っている料理の数々は実は真面目に丁寧な仕事がされていたのだと、やっと理解ができるようになりました。

私も衣笠丼のような人になりたいものです。

うめこ


今日の一枚 – アーカイブから

FM3a /Portra 160 / 50mm Ai

FM3a /Portra 160 / 50mm Ai

ドイツ、カッセルにて撮影。2017年


今日の一曲

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川本真琴 – 1/2


今日の一冊

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