うめちゃんからの手紙 2018 No.119 母が聞かせてくれた上方落語の「指南書」の思い出。

うめちゃんからの手紙 2018 No.119

団欒しながらはじめおじさんの話に耳を傾けるうめちゃん。

うめちゃんからの手紙 2018 No.119

私の母は弁護士資格を持っているという事と若い頃から自費出版で同人誌などを作っていたせいもあって本当に文章を書くのが上手です。
恥ずかしながら私も自分が書いた文章で表彰された事もあるのですが、母にはかないません。
私は少しでも気を抜くと誤字脱字も多くなり、分かりにくい表現をしてしまったり本当に読みにくい文章をダラダラと書き連ねるだけのマシンになってしまいます。
学校でなぜ表彰されたのかは未だにわかりませんが、先生の気まぐれか運が良かったのか、はたまた先生が私にも何か自信を持って欲しいと”忖度”してくださったのかもしれません。

私の母が圧倒的に文章が上手な理由は、本基彼女が多読で雑読だという事も大いに関係しているようにも思えます。
母は鬱病がひどくなるまでは知財訴訟を得意とする法律事務所に勤めていました。
そのためなのか母は今でも色々な事に好奇心を持っています。
中でも上方落語やお笑いなどへの造詣が深く、時には落語の話を経済学などと絡めて話すので驚かされる事が多々あります。

実家で暮らしていた子供時代や、旅行などで同じ部屋で寝る時、母から落語の話を聞かせてもらうのが本当に好きでした。
私が東京の叔母の家に引っ越す前夜に話してくれた落語は三代目桂米朝師匠も得意とした「指南書」でした。
「指南書」というお話を簡単に説明すると真面目だが嫉妬深い商家の箱入り息子が仏門に入り多くを学び、学問を修めたタイミングで自分を可愛がってくれた方たちが亡くなり自立しなければいけない局面に立たされます。
そして彼が学んできた事が実戦で試される機会が間髪を容れずに訪れます。
大事な人を失った経験も若旦那の恐怖心のようなものを増長したのかもしれません、なにぶん箱入り息子です、社会に出たことで苦労をしたりいろいろなことを経験し家に帰り…オチは書きませんが、最後はほっこりと纏まっています。
東京で暮らし始めて2年目の今、母のセンスの良さを感じます。

余談ですが、三代目桂米朝師匠は忘れ去られてしまった落語を学者のように拾い集め復刻させたり、上方落語の復興と認知度を向上させるためにご尽力された方で有名なのですが、落語の腕のみならず、文才もありとても素敵な文を数多く残されています。
何より真面目で世話焼きというか親切な人柄が滲み出ているような気がします、そのようなところも私の母の心をぐっとつかんだのかもしれません。
有名なエピソードで雑誌・上方芸能のために23年間平均して毎回20枚ほどの原稿を無料で寄稿していた事も知られています。
無料で仕事をする事には賛否両論ありますが、大阪の芸能を知ってもらうために本当に情熱的に活動されていたのだと伺い知る事ができる逸話です。1)

母から様々な落語を聞かされた記憶がごちゃごちゃになってしまい思い出せない話がいくつかあるのも事実です。
最初に断っておくと、もしかしたら母の創作落語かもしれませんし、私の中で勝手にいろいろな名作がマッシュアップされてしまったのかもしれませんが、
曖昧になっている話の一つで秘伝の薬か和菓子の作り方を知っている馬鹿正直な若旦那が登場するお話がありました。
その若旦那が生まれ持っての馬鹿正直もので、代々大事に口伝のみで受け継がれてきた製法を同業のライバルに馬鹿正直に話してしまうのです…女将さんや丁稚も大慌てになるのですが…
ここが知財訴訟を専門にしていた母らしいところでもあるのですが、現実に起きたコカコーラのレシピを盗みペプシに売り渡そうとした男が、男の予想とは反対にペプシの社員が道義的に警察にその男を突き出したという2006年に現実に起きた話と絡めて話してくれた事がありました。2)
割愛しますと、落語もコーラの件も結局極秘に大事に守られてきたレシピが漏れたところで今まで真面目に切磋琢磨してきた二社は同じものを作っていても別のファンが付いていて真似をしたり代替財を完璧に作ったところでお互いが消耗戦に突入するだけであり、結局は正直に真面目に今までのこと丁寧に続けていく事が二社の幸せであるといった感じの話でした。

似たような話で、はじめおじさんも基本的に教えを請われれば全てレシピを人に教えています。
レシピというのは料理人や製菓を作る人間にとってはいわゆる特許のようなものでとても大事なものです。

でもはじめおじさんは
「本当に舌が良い料理人で基本を押さえている人間にはレシピを秘密にしたところで無力だし、僕自身も人の料理を食べればある程度は絶対音感のようにレシピがわかるんだよ。例えば僕が弟子をとって完璧に僕と同じ味が作れる料理人を育成したとしても、その人が出す料理が好まれ人気が出るとは限らないのね。料理人だけではなくメートル・ドテルをはじめとした実際にお客さんと接する係の観察力とその給仕のタイミング、料理の温度も大事になってくるんだよ。すごく美味しい料理があってもワインの選び方が下手なソムリエが全てを台無しにする事もあるし、近くのお客さんの香水の匂いが味覚に影響を与えてしまうことだってあるわけだし。一番わかりやすいのが寿司職人だよ。一級品のネタとシャリを素人に与えても美味しいお寿司は握れないでしょ?目で見れば構造もわかるし理屈もわかるのに作れないものなんだよ。この話にオチはないけれど、みんながチームプレーを理解して真面目に与えられた仕事をこなした時に始めてお客さんに喜んでもらえるんだよね。だから考え方によっては自宅で食べる夕ご飯が一番っていうのも納得できてしまうよね。ありきたりな答えで申し訳ないけれど愛情が一番大事な味付けだよ。」
と丁寧にはじめおじさんなりの理由を教えてくださったのでした。

真面目に継続する、これが最大の武器であり、自分を認めてもらう一番の近道なのだなと思いました。
今はまだ母のように上手に文章は書けませんが、母に負けないように毎日文章を書いていこうと思います。

うめこ


今日の一枚 – アーカイブから

FM3a /Portra 160 /35mm Ai

FM3a /Portra 160 / 35mm Ai

ドイツ、カッセルにて撮影。2017年


今日の一曲

Rumania Montevideo – Still For Your Love (Live Studio)

rumania montevideo – Still For Your Love 


今日の一冊

References

References
1 桂米朝さんは焼き肉奉行? 時におせっかいだった素顔から引用https://dot.asahi.com/wa/2015032500073.html?page=1
2 東洋経済コカ・コーラの製法を盗んだ元社員の「誤算」から引用https://toyokeizai.net/articles/-/120955

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