うめちゃんからの手紙 2019 No.112 昨日も明日も10年前でも同じこと。

うめちゃんからの手紙 2019 No.112

犬は長いこと飼っていた田中さんですが猫は初めてです。どことなく嬉しそうな田中さん。

うめちゃんからの手紙 2019 No.112

今日は田中さんが使い魔契約を結びました、と同時に田中さんの長年の疑問が解決した日でもありました。
私の父方の使い魔の猫はヒロシをはじめ大体が恰幅が良くどちらかといえば肥えているのですが、田中さんの使い魔になった猫も大変大きな猫です。
田中さんの使い魔になった猫の名前はジェイ君という既に名のある猫で子猫ではありません。
歌子ちゃんと文子ちゃんがたまたま子猫だった二郎と三郎を使い魔にするという事が最近ありましたが、子猫から飼い使い魔契約を結ぶというのは実は稀で、ほとんどのケースで猫の方が先輩という事が多いです。
私もヒロシが子猫の頃から一緒にやってきましたが、ほとんどは猫の方が上下関係で上の組み合わせが多いのが仕来りのような感じで続いてきています。
田中さんの使い魔になった猫は私の祖母の使い魔の兄です。

ジェイ君は西秋家の門外不出の猫だったのですが、田中さんにはジェイ君の姿が見えてしまったので祖母も田中さんを信頼し預けることになりました。
普段の生活でもなぜ猫がこんなところに?なんでこんな場所に入り込めたの?と疑問を持たれた事がある方もいらっしゃると思うのですが、ジェイ君はこれを極めてしまった猫です。
猫には一定数この能力をもって生まれる個体がおり、多くは自由を好み野良猫として一生を終えたり、人が知覚できない空間に入って過ごすので、飼育例が少ないのです。

不思議な能力を生まれながらにして持っている猫で、実体をなくす事ができ時間や場所の概念すらも関係のない、文字通り神出鬼没な猫で、心の中であったり夢の中にも入り込めるその特殊性から魔女が使い魔契約をする際は魔法省に届け出が必要なタイプの猫です。
この類の特殊な能力を持った猫を買う時は魔法省に届け出て登録すると魔法省が追跡できる特殊な首輪が送られてきます。

ジェイ君は私の父についていた事もあるのですが、以前紹介した通り父は猫にすぐに騙されるタイプの魔法使いだったという事とジェイ君も父も気が弱い男の組み合わせという事でコンビを解消し、以来ジェイ君はいわゆる引きこもり猫としてずっとイギリスの納屋や京都の家の地下ででぼんやり過ごしてきました。
祖母が言うには、決定打になったのが叔母とジェイ君がめちゃくちゃ仲が悪く殺し合いの一歩手前まで喧嘩が発展してしまった事があったそうです。
ジェイ君が思春期だった叔母のデリケートな秘密を全て祖父母に話してしまい叔母がジェイ君に殴りかかり家が吹っ飛びかけたと聞いています。
繰り返しますが体があって無いのがジェイ君なので殴りかかったところで彼にはダメージはありませんしこちらが疲れるだけです、分が悪い相手です。
魔女にとって仲間の秘密を守る事は鉄の掟です。
たとえ火あぶりにあっても秘密を漏らす事は今の時代でも私刑にあいます。

ジェイ君は田中さんが小さかった頃から夢や目の前に時折出てきていたそうなのです。
田中さんは幼い頃から頭が良すぎたため間違った冷静な自己分析の結果、ガンで母親を亡くした悲しみから妄想のお友達猫を作り出してしまいそれが幻覚として見えるようになってしまったのだと勝手に納得していたそうなのです。
周りの大人も田中さんはしょっちゅう猫や犬に追いかけられたりカラスやスズメまでベランダに遊びに来ていたので日常すぎて誰も気に留めなかったそうなのです。

大人になってもデブった猫がしつこく目の前に現れるものですから、不安になった田中さんは身近な私の祖母に相談をし、事が発覚に至ったわけです。

ジェイ君には時間の概念がなく昨日も明日も一切関係ないので、今日やっと使い魔契約をした事は一切関係なく、過去の田中さんもジェイ君にとっては主従契約をした魔女に変わりがないのです。

人の夢に勝手にも入り込む事が出来て未来や過去へも自由に行き来する事ができるので、人のプライバシーを侵害し放題なので魔女には嫌われる事が多いタイプの猫です。
人は誰でも秘密にしたい事や恥ずかしい記憶、言えない妄想をしていたりするもので、ジェイ君のようなタイプの猫を使い魔にする魔法従事者はほとんどいません。
でも昔に比べジェイ君も大人になったようで人の秘密を漏らしたり意地悪をしたり、いたずらに宝くじの番号を教えたりという事はしなくなったようです。
どの時代でもこの類の猫で混乱してしまうのは人間側が悪いのです。
どう未来や過去を変えても死という同じ収束点にたどり着く事は避けようがありません。
大局的に見れば人間が自分の人生や他人の人生に大きく影響を与える事が出来たと思っていることの多くは只の驕りに過ぎず、上善は水のごとしという言葉を地で行く田中さんであれば決して飼育が難しい猫では無いと私は思います。

私は悩み事や不安、恥ずかしい妄想を常にしながら生きているタイプの魔女だと自負しているのでジェイ君のような猫を使い魔にする事はできないと思います。
私は他人に親切にしたり社会のために役に立つ人間になりたいと考えていますが、これも所詮は自己を良い人間だと認めてもらいたい欲に過ぎません、浅はか。

一般的に成人した魔女や魔法使いには懐いてくれないタイプの魔法猫なので、よっぽど田中さんが乙女でピュアな心の持ち主なのでしょう。
田中さんは常に猫や犬に追いかけまわされているので動物に好かれる何かが溢れ出ているのでしょうね。
めちゃくちゃ飼育難度が高く懐く事がないタイプの猫なので、使い魔にできると事は蛇などを使い魔にする事同様に大変名誉な事です。
ただ3年飼育を継続したことが認められると魔法省から報奨金が出て以降は飼育にかかる費用を負担してもらえます。
都道府県にもよりますが事件を起こさずにかい続けられると報奨金が振り込まれる場合もあります、それだけ大変なのです。
魔女や飼育できる人間の管理下に置いておかないと社会が混乱してしまうためです。
苦労する事は分かっていますが尊敬しています。

ジェイ君は「さきちゃんが死ぬまでは使い魔は僕だけだね。さきちゃんが今寿命知りたいって言うなら教えるけど?」と言っていたので、田中さんはとりあえず最後までジェイ君の面倒を見てくれるようです。
田中さんは寿命は知りたくないとテンパっていました。

うめこ


今日の一枚

LEICA M10 / NOKTON 35mm F1.2

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今日の一曲

吉澤嘉代子 – 残ってる @ 森、道、市場 2018

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今日の一冊

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